海国記

日本の歴史において一時代を華々しく飾った平家。
この本はそんな平家が何故権力を握れたのかがよくわかる小説です。
教科書等に出てくる平家は院の寵愛を得て権力を握った様に書かれていますが、彼らが何故院の寵愛を得られたのかの説明はありません。
この本ではその理由を当時の物流の様子と商品経済に対する平家の理解が権力掌握に繋がった様子を平家三代の営みと共に綴っています。
彼らが何故西国に勢力を伸ばし、瀬戸内海の海運を抑え、厳島神社を建立した理由がこの本を読めばよくわかります。
ただ惜しむらくは平清盛が登場するあたりで終わっていれば最高だと思うのですが。
上巻に登場する水竜・千鳥はとても魅力ある登場人物で彼らを軸に展開する物語はさすが服部真澄だと言える物になっています。
しかし、下巻、特に彼の晩年の描写がいまいち面白くないと感じました。
なんだかとりあえず入れた感じて中途半端だと感じがします。
それでもさすが服部真澄だけあってハードカバーの上・下巻でも長く感じる事はありませんが、史実をベース展開しているために彼女の魅力が全編に渡って展開できずにいた様子がうかがえます。
現代物が中心だった彼女も今後は歴史物にも手を広げていくんですかね、上巻みたいな感じであれば楽しめそうです。

海国記(上) 平家の時代

海国記(上) 平家の時代

6ステイン

亡国のイージスやTwelve Y. O.で描かれていた諜報組織のサイドストーリー的な物が6本集まった短編集。
短編とはいえそれぞれが福井ワールドの面白さに引き込んでくれる作品ばかりです。
私的には「断ち切る」に出てくる老人がいい味をだしていて気に入ったのですが、その他の短編もいろいろな魅力のある登場人物が出てきて読む人にとって飽きさせない物に仕上がっています。
最後に出てくる「920を待ちながら」には亡国のイージスで如月行が所属していた部隊名にもなった人物の一端が垣間見えます。
ファンの方は読んで損はないですよ。

6ステイン

6ステイン

秀吉 朝鮮の乱

豊臣秀吉朝鮮侵略戦争である文禄・慶長の役をあつかった小説は何点かありますが、この本は朝鮮・明側の動きがメインのテーマとしてきちんと描かれている小説です。
日本側の動きに対して朝鮮や明がどの様な反応を示し、どの様な行動を起こしたのかが当事者の考え方をふまえながら描かれているので、普段あまり目にする事のない文禄・慶長の役での朝鮮・明側の動きを知る上でもとても参考になる本です。
ちなみに、文禄・慶長の役は日本側の命名で、朝鮮では年号から壬辰・丁酉倭乱と呼ばれています。

秀吉朝鮮の乱〈上〉

秀吉朝鮮の乱〈上〉

テロリストに薔薇を

ベトナム戦争中に戦場のまっただ中で出会ったマーティン・ブロスナンとアン・マリイ。
互いに引かれ合う二人だかブロスナンは退役後IRAの活動となり、そこでリーアム・デブリンと知り合う。
しかし彼は武器の受け渡しでフランスに行った際に裏切りに合い混乱の中警官を殺してしまう。
そして彼は絶対に脱出不可能なフランスの牢獄「ベル・アイル」に収監されてしまう、ここを出るのは死んだときしかない事を知りつつ。
そんな彼に出獄するチャンスが与えられる。
KGBの依頼により西側諸国に混乱を与え、今また西側の最新兵器を強奪しようとしているIRAのテロリスト「フランク・バリイ」を暗殺するための切り札として指名された。
フランク・バリイと彼はIRAの活動の中で互いをよく知っている上に彼の最愛の親族がフランク・バリイに殺されていたからだ。
しかし彼はその要請を断る。
そして彼は独力で脱出不可能と思われていたベル・アイルから脱出し復讐を果たすためにフランク・バリイを追いかける。
そしてその復讐行のなかでかれは最大の裏切りに合い、そして彼の目的に一つの事が追加される。
裏切りに責任のある者の中で最高位の者に裏切りの代償を支払わせる事だ。
彼の目的は果たされるのか、そしてアン・マリイとの関係は。
ジャック・ヒギンズ作品の中で初期の頃の傑作です。
本作に登場するブロスナン、マリイ、ファーガソンデブリン達はその後もヒギンズ作品の中で登場し、特に「嵐の眼 (ハヤカワ文庫 NV (852))」にはこの四人が深く関わってきますので両方読んでほしいと思います。

テロリストに薔薇を (ハヤカワ文庫NV)

テロリストに薔薇を (ハヤカワ文庫NV)

逃亡

第二次大戦中香港で憲兵隊員として活動していた主人公。
しかし終戦と共に戦犯とされる事を受け入れられない彼は憲兵隊から逃亡し、中国そして日本、彼の過酷な逃亡生活が始まる。
主人公は憲兵ですが、よくある鬼の憲兵の物語ではなく一人の戦犯とされた日本軍人が戦後の混乱期の中をどのように生き抜いてきたかがメインのテーマになっています。
そしてその中で、戦犯として追われる主人公が家族と共に過酷な運命に対して立ち向かい、乗り越えていく姿はすばらしいドラマに仕上がっています。
終戦後の混乱期に日本人が何を考え、どのように行動し、そして生き抜いてきたかが鮮やかに描かれていて戦後史という面でも面白い作品になっています。

逃亡(上) (新潮文庫)

逃亡(上) (新潮文庫)

血と夢

現在ニュース等でもあまり見かけなくなったアフガニスタン情勢。
少し前まではイスラム原理主義タリバンが支配し、その前は旧ソ連の後押しを受けた政府の支配下にありアメリカの後押しを受けたムジャヒディンと呼ばれるイスラム教徒との熾烈なゲリラ戦が展開されていた。
この本はそんな旧ソ連勢力対ムジャヒディンの熾烈な戦いが繰り広げられるアフガニスタンの大地を舞台に、元エリート自衛隊員が旧ソ連が開発した世界の武器の常識を覆す新兵器を入手するためにアメリカ情報機関の依頼で侵入する。
しかし、彼の心には消したくても消せない親友への負い目を背負っていた・・・。
そしてそれが友情を大事にしていた彼を変えて今っていた。
一時期世界的な注目を集めていたアフガニスタン情勢もあまり聞かなくなった。
注目を集めていた時期もタリバン軍閥に関する話題が多く、何故タリバンが生まれ勢力を拡張していったかについてはアメリカとの関係も含めて大きなテーマになっていなかった気がします。
この本を読めばアフガニスタンが持つ、歴史の様々な糸が絡み合っている様子から単純な解決策が成功するのは難しい事がよくわかると思います。
タリバンが政権を失っても今なお混乱が続くアフガニスタン情勢に興味がある方は読んでみると参考になると思います。

血と夢 (徳間文庫)

血と夢 (徳間文庫)

樹海戦線

東西冷戦が激しく火花を散らしていた80年代、ニューヨークでソ連代表団の車が事故を起こす。
しかし、運転手は外交官特権も主張せず何もしゃべらない。
普段と様子が違う事を不審に思うNPDだがその近くで乱暴された女性の死体が見つかり関係を疑うが、結局外交官特権により釈放する事となる。
しかしちょうどそのとき殺された女性の夫が居合わせ、怒りから彼らを一周のうちに殴り倒してしまう。
彼は歴戦のアメリカ陸軍エリート特殊部隊デルタフォースの出身者で女性は彼の最愛の妻だったのだ。
そしてその殺人事件の情報はCIAとGRUの米ソの情報機関の注意も引く結果となった。
最愛の妻の復讐を果たすために行動する彼は殺人事件の犯人はKGBの辣腕工作員であり、現在南米のテロリストキャンプに潜伏中である事を知る。
自らの復讐のために持てる技術と情報を生かして復讐を果たそうとする彼。
標的の辣腕工作員は今まさにデタントに向かう米ソ両国だけではなく世界情勢をも揺るがす大規模なテロ事件を計画中である事も知らずに・・・。
彼の復讐は成功するのか?そして、テロの行方は?
一度読み出したら本当にはまってしまうアクション小説です。
今になってみると確かに時代設定は古く感じるかもしれませんが、それでもこの小説の面白さは減る事はありません。
ジャック・ヒギンズやA・J・クィネルがお好きな方ならきっと気に入っていただけると思います。

樹海戦線 (ハヤカワ文庫NV)

樹海戦線 (ハヤカワ文庫NV)